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「ギィエエーエッ…グギイイィーイッ…苦しいよう…誰か…ギャアアアーアッ…誰か助けて…苦しいーっ、うああ…ウギャアアアーアッ…死…死にたくない…助けてぇーっ…ヒイイィーイッ…痛いよう…お父さま…お父さま助けて…珠子を助けて…。」
 大の字に釘つけにされた珠子はいよいよ無残に狂い泣くが、竹槍は一寸刻みでじわりじわりと彼女の均整のとれた身体を貫いていく。何と恐ろしくまた、この世ならぬ美しさであろうか。
 ついにこの悪魔の夢が実現したのだ。これほど無残な、そしてこれほど素晴らしく美しい芸術が他にあるだろうか。四条流家元の美しく清純な令嬢が、想像を絶する責めと辱めを受けた挙げ句、今、こうして目の前で大の字に磔にされ、串刺しにされる地獄の激痛と死の恐怖に血みどろになってのた打ち回り泣き叫んでいるのだ。
「ぐああ…ギィエエエーエッ…痛いよーっ…ウギャアアーアッ…ギャアアアーアッ…痛いよう…助けて、グギィッ…死…死ぬのはいやだ…助けて…グギャアアアーアッ…ギャアアアーアッ…。」
 さらに無残に、哀れに、そしてそれだけに一層美しく泣き狂い、のたうち回る珠子の姿を寸分も見逃すまいとする赤サソリは、もうまばたきすらしなかった。
 この美しい令嬢の苦痛と恐怖に歪み、涎や涙、鼻水にまみれた顔を見るが良い、ゆっくりと回転しながら血に染まった竹槍が沈んでいく様を見るが良い、竹槍に内臓をじわじわ引き裂かれる苦痛に波打つ腹部を見るが良い、引き攣る四肢を見るが良い、ひたすら空を掻き毟るしなやかな指を見るが良い、そして死の恐怖に慎みも品位も忘れ子供のように泣き狂い助けを求め命乞いをする哀れな声を聞くが良い、美しい令嬢に不釣合な無残な絶叫を聞くが良い、それに混じる生贄の体内から聞こえる内臓が引き裂かれ潰されていく鈍音を聞くが良い。この惨めで哀れな肉の塊こそがお前たちが憧れる相川珠子という娘の真の姿なのだ。
 頭が割れそうなほど興奮している赤サソリはこれから街に走り出し、そう叫びながら人々をこの場に呼び集めたい衝動に駆られた。
 竹槍は十分あまりもかけても、ようやく珠子の体を半分しか貫通していない。
「グギイイイィーイッ…ウギャアアアーアッ…ギャアアッ…ギャアアッ、うああ…ギィエエエーエッ…ヒイィッ…アヒイイィーイッ…。」
 その間珠子は地獄そのものの責め苦に手足をひきつらせ、全身を激しく硬直させながら一秒の休みもなく絶叫し続けるが、もうそれは言葉にならない、獣じみた絶叫ばかりだ。珠子は助けてを求めて泣き喚きたいのだ。しかし余りに凄絶な苦痛に、もう哀れな令嬢は言葉にすらもないのだ。
 さらに十分後、竹槍がのど元あたりまで達すると珠子の髪が熊手に引っかけられて顔を上向きにさせられる。
「ぐええっ…グギイイィーイッ…ンギイイィーイッ…。」
 とても美しい珠子のものとは思えない不気味な音とともに彼女ののどの奥がゴロゴロといい始め、やがて上を向いた口から大量の鮮血がごぼごぼと溢れだす。やがてついに血でまっ赤に染まった竹槍の切っ先がニュッと姿を現わした。
 眼球が飛び出さんばかりに目を見開き、全身が狂ったようにのたうち回る珠子の口から、竹槍はじわじわと口から押し出されていき、ついに口から三十センチあまりも突き出してしまったが、串刺しにされた令嬢はまだまだ死ぬことは許されなかった。
 (ああっ…あぐぐ…苦しいよう…死にたくない…苦しい…お父さま…ああ…お父さま死にたくないよう、助けて…神様助けて…死ぬなんていやだ…。)
 無残な串刺しにされ、もう絶叫どころか声すら出せない珠子は心の中で泣き叫びながら、そのままの姿で四肢を引きつらせ、体を細かく震わせながら地獄の責め苦にのた打たねばならなかった。
 それはまさに脳天から爪先まで粉々になりそうな凄絶極まりない、まさに地獄そのものの激痛だった。しかもその先に待つのは悲惨な死以外の何物でもない。その凄まじい苦痛と死の恐怖ともに、可哀想な珠子の脳裏に父や兄の顔、付き合い始めたばかりの恋人、友人たちの顔が浮かんでは消えた。
 一方、赤サソリたちは日本中の憧れの的だった相川珠子という美しい令嬢が、丸いお尻から口まで一本の竹槍に串刺しにされ、血みどろになって苦痛にのた打ちながら、徐々に魂を失った肉の塊に変化していく様を興味深げに眺めていた。
 やがて珠子は四肢を引き攣らせるだけになり、それはゆっくりと断末魔の麻痺に変わる。結局、珠子は二十分あまりも地獄の苦しみにのた打ち回ったあげく、信じられないものを見るように見開かれた目で、自分の口から突き出している竹槍の切っ先を見詰めながら息絶えた。
「おやお嬢ちゃん、もうくたばっちゃったよ、つまんないねえ。」
 一寸法師が物足りなげに言った。
「何、すぐに次の獲物を捕まえてやるさ。」
 一方、赤サソリも事もなげに言う。
 が、その二人の目はしっかりと、相川珠子−竹槍で串刺しにされて全身鮮血で真っ赤に染まって絶命し、全身の力を抜いてぐったりとなりやっとあらゆる苦痛から解放された令嬢の酷たらしくも鮮烈に美しい姿−に釘つけになっていた。

(終)

 その翌日、銀座街頭ショウ・ウィンドゥに哀れな相川珠子の死体がいかに陳列され、いかに衆人のもと酷く晒されることになったか? それについては江戸川乱歩著「妖虫」の[銀座の案山子]の章をお読みになれば自ずと明らかになるであろう。

 

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