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 赤サソリは必要以上にネチネチと、哀れな令嬢に彼女自身の死に様を説明する。この悪魔は処刑の前に、その苦痛と恐怖を詳しく説明することで、残酷に美しい生贄をいたぶり苛んでいるのだ。珠子はいやいやをするように首をふろうとするが、赤サソリはしっかり彼女の髪を捕まえて放さない。
 そのため彼女は可哀想に、恐怖の余り声も出せず、しかし目は恐ろしい磔人形に釘付けになったまま、ガタガタ震えながら赤サソリの容赦ない言葉を聞くばかりだった。
 そう、珠子は最初の夜、向島の化物屋敷で磔で殺されれば良かったのだ。もしあそこで殺されていれば地獄のような拷問や凌辱もなく、晒し者になるとはいえ、ただ磔台に縛り付けられて胸を槍で抉られるだけで殺されて済んでいたのだ。
 それをなまじ助かったばかりに散々辱められ、責め苛まれたあげく、ここでこうして磔にされ、ただの磔より数倍恐ろしく残酷という串刺しの刑により嬲り殺にされねばならないのだ。しかし赤サソリの嬉しくてたまらないような、恐ろしい説明はまだまだ続くのだった。
 「それから後は昨日言った通りだ。明日朝やってきた見物人たちは感に耐えたように、本当の死体とは知らないで、恥部までさらした素っ裸で磔になり、串刺しになったお嬢さんの屍体を眺めてくださろうというもんだ。
 なんてきれいなお嬢さんの、これはまたなんて惨めで恥ずかしい、惨たらしい死に様だろうってな。そしてその正体が家元ご令嬢の成れの果とわかったら大騒ぎだぜ。へへ、どんな大スターも真似できない演技に拍手喝采だぜ。珠子さんは間違いなく磔串刺し娘として日本中に知れ渡るってもんだ。どうだ、嬉しいだろうな、ぞくぞくと嬉しいだろうな。」
 これだけ言うと、赤サソリは楽しくてたまらないように咽喉の奥で笑い声を上げる。
「ああっ…ヒイイィーイッ…ヒィッ…。」
その時ようやく珠子は悲鳴をあげ、泣き叫びながら自分を抑えつける手下の手を払い除けて逃げようとするが、しかしその足はすぐ偽探偵に払われ、珠子は無残に地面に転倒してしまった。
「へへ、お嬢様、裸で一体どちらへいかれますか。」
そして偽探偵が嘲るように言いながら、起き上がろうとする令嬢を背後から羽交締めにした。
「ヒイイイィーイッ…ああっ…そんな…そんなことどうして…助けてぇーっ、お父さま…お兄さま助けて…死にたくない…死ぬなんていや…助けて…珠子を助けてぇーっ…いやだぁーっ。」
 さらに珠子を磔にするために手下たちの無数の手が悶え泣く彼女の体をとらえ、珠子の哀願と悲鳴は一層哀切さを増した。
「ヒイイィーイッ…ヒイイィッ…いやだぁーっ…お願いあんな…あんなふうになりたくない…死にたくない、ああっ…磔なんていや…串刺しなんていや…いやぁーっ。」
 彼女は哀れな声で泣き叫び、必死で全身をよじらせのた打ち回らせるが、それもただ残酷な悪魔たちの目を楽しませるだけだった。
「そうそう、もっと泣き叫べ。泣けるのも今のうちだぜ、お嬢さん。」
「ふん、誰が助けになどくるものか。お前の綺麗な肌がもうすぐ血でまっ赤に染まるんだ。」
「蛇やら犬やらに犯されては殺してくれって喚いてたのは、どこのどなただったっけ。」
 手下たちもそんな珠子を嘲るように言うと、寄って集って屠殺場に引かれる子牛のように暴れる令嬢を半ば引きずるように、彼女を人形の縛り付けられたままの士の字型の磔台の根本に連行していく。
 その磔人形が自分の運命だと思うと、珠子の恐怖、絶望は気も狂わんばかりだった。
「ヒイイイィーイッ…いやぁーっ…こんな…こんなのいやぁーっ…死にたくない…死ぬなんていやです、お父さま助けてぇーっ…ああ…ああっ…こわいよぅ…何でもします…だから助けてぇーっ…お願い助けてぇーっ。」
 珠子は地面に座りこみ、美しい顔をこわばらせ死に物狂いで暴れのた打ち、手下たちの手を振り払おうと必死で四肢をよじらせ泣き狂いながら哀願する。しかしか弱い令嬢がどんなに暴れても男達の力にかなう訳がなかった。
 哀願など何の役にも立たなかった。そればかりか、逆に美しく慎み深い令嬢が恐怖と絶望に身も世もなく泣き狂いのた打つ姿ほど、この悪魔たちをそそらせるものはないのだった。彼らにはせっかくの生贄が従容として死につくなど、興醒め以外のなにものでもないのだ。
「相川珠子二十一歳、その方、淫乱の罪によりこれより磔串刺を申し付ける。」
 偽探偵は江戸時代の役人のまねだろう、そんな珠子の髪をつかんで顔を引き上げ厳しい口調で申し渡し、手下たちの間から笑いが起こったが、哀れな娘は相変わらず無残に泣き叫び、いやいやをするように必死で顔を左右に振り続けた。
 手下たちはまず柱から人形を外すと、磔柱を地面に倒した。
「さあお嬢様、おとなしく磔柱の上にねんねするんだ。」
「後は俺達が手足を大の字に広げて釘つけにして、地面に立ててやるぜ。」
「キャアアアーアッ…いや…ヒイイィーイッ…お願い助けて…お兄さま助けてぇーっ…死にたくないよーっ。」
 男たちは、子どものように泣き狂い、死に物狂いで暴れ続ける珠子の体を磔台の上に横たえ、全員で暴れのた打つ体をしっかりと抑えつける。
 そしてしなやかな手を左右に広げて磔台の横木に押し当てると、何ということだ、その美しい掌に五寸釘を打ち込んだではないか。
「ギャアアーアッ…痛いーっ…ヒィッ…ヒイイィーイッ…助けて…痛いーっ、ああっ…磔…磔なんていやだ…死ぬのはいやだぁーっ。」

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