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2、処刑編

 次の日の夜のことである。とっくに閉館になり、見物人も付近の通行人も途絶えたとある化物屋敷、最初の夜に珠子が連れ込まれたものと大同小異の化物屋敷の中を歩いて行く一群の人の姿が有った。先頭に立つのは赤サソリ、その後をヒョコヒョコ歩いているのはあの一寸法師、続くのは偽探偵初めその手下たちだ。いいや、彼らたちだけではない。手下たちは3人ほどで大きなズック袋を抱えている。そしてその袋は時折かすかに苦しそうな悲しそうな呻き声を上げ、巨大な芋虫のように蠢いている。
「どうだ、お嬢さんは静かにしているかい。」
「大丈夫でさぁ、あんだけ嬲り物にされりゃぐうの根だって出やしませんぜ。」
赤サソリの問に、偽探偵が残忍な笑いを浮かべて袋をつつきながら答える。やがてその一隅の広場に到着した赤サソリたちはそのズック袋を地面に降ろし、口を閉じている紐を解く。そしてその中から現われたのは、そう、赤裸のまま後ろ手に縛られ、両足首もまた一つに縛り合わされ、口に厳重な猿轡をはめられた十八歳の美しい令嬢、相川珠子の無残な姿だった。
 いよいよ最後の場、自分を処刑する場に連行されたのではないか。袋から引き出された珠子はそんな恐ろしい予感に美しい目を涙で一杯にし、ひたすら哀れみを乞うように残忍な赤サソリを見上げてしなやかな裸体を細かく震わせている。
 そんな珠子の姿は髪は綺麗に整えられ、薄く化粧も施されているが、その分哀れで無残で、そして美しい。そして彼女の予感は不幸にも的中していたのだ。
「ふふ、お嬢さん、窮屈な思いをさせて済まなかったな。だがこれも一昨日のような邪魔が入らないためだからどうか勘弁してくんな。ところで今日こそお嬢さんとの約束を果してやるぜ。ほれ、今日お前さんををああしてやるんだ。」
 赤サソリがそれだけいって、そんな珠子の顎を摘み上げ広場の中央にねじ向けたその先に、ああ、何という恐ろしいことだろう、一昨日のと寸分違わぬ磔人形、ほとんど全裸の若い女が手足を大の字に広げて磔柱に縛り付けられ、肌を抉られて血みどろになって絶命している磔人形の姿が有ったのだ。何という悪魔だろう。赤サソリは美しい生贄を散々辱め、弄び、苛んだ挙げ句、結局、最初の目論見通りに珠子を磔にして惨殺しようというのだ。その屍を人々の目前にさらそうというのだ。
「ウウッ…うぐぐ…ングウウウゥーウッ…。」
珠子は目を恐怖に一杯に見開いて猿轡の奥で曇った悲鳴を上げ、縛られた体を死に物狂いで捩らせていたが、やがて限界を越えた恐怖にぐったりと気を失ってしまう。
 しかし、すぐに珠子は強壮剤を注射されて、目を覚まされる。珠子はもう自分が磔にされているのかと怯えた表情をした。そう、彼女は失神する寸前に、磔人形に一昨日とは違うものを、それも途方もなく恐ろしいものをみたような気がするのだ。
 が、それを思い出す前に彼女は手足の縄も猿轡も全て解かれ、地面に横たえられている事に気が付いたので、あわてて腿を閉じ両腕で胸を覆い、恐ろしさに磔人形を見る事もできず、うつむいて泣きじゃくり始めた。
「ふふ、お嬢さん、泣いてないであの人形をよく見るんだ。あれがお前さんの運命なんだからな。」
 そして赤サソリは哀れな令嬢の髪を掴んで顔を引き起こし、無残な人形を見せつけながらあの陰惨な声で、楽しくて堪らないように喋り始める。
 「まずは手足だ。あの人形の手足は磔柱に釘付けにされてるだろう。あれだけでも相当痛いだろうなあ。」
 それだけ言った時、人形を見せつけられていた珠子の口から悲痛な声がほとばしる。
「ヒイイイィーイッ…ああっ…ヒイイィッ…。」
 珠子はこの前の人形と何が違うか気付いたのだ。
「そうだ、珠子さんも気付いただろう。そう、あの人形の股間から口まで刺し貫いている竹槍だ。何しろこれを見つけるために二日もかかったんだ。」
 赤サソリが面白げに言う通り、その若い女の人形は股間から口まで、一本の竹槍に貫かれていたのだ。竹槍は大きく開いた口から血に染まって宙に突き出され、人形は凄まじい苦悶の表情のまま見開いた目で竹槍を凝視し、全身口から溢れた血で朱に染まっている。珠子の美しい顔が恐怖に引きつり、赤サソリはそんな生贄の様子に満足気な笑みを浮かべた。実際赤サソリは珠子を串刺しにするのが面白くて仕方ないのだ。
 「あれは串刺しの刑と言って戦国時代に行われた中でも最も残酷な処刑なんだよ。何でもあれに架けられると竹槍が肛門から口まで貫通する間地獄の苦しみにのた打ち回って、しかも貫通後も中々死ねないのだそうだ。
 それに死ぬ寸前まで明瞭に意識を保ったまま、凄まじい苦痛を味あわないとならないんで、裏切った武将の姫君がよく見せしめにこれで処刑されたそうだが。もっともどんなお姫様だって珠子さんほど綺麗だったかわからないがね。
 はは、お嬢さんはこれから、もちろん裸のままあの人形の代わりに磔台に手足を大の字に広げて釘付けになるんだ。珠子さんは色白で美人で、しかも見事な肉体美だから、磔にすればさぞ見栄えがするだろうな。
 それから槍で脇腹を何回も抉られ、最後に竹槍で肛門から口までじわじわ串刺しにされ、そのまま串団子のような姿で地獄の苦しみに泣き狂いのた打ち回るのさ。
 そうして、一時間もたてばあの磔人形そのままに、自分の尻の穴から体を貫いて口から突き出した竹槍を眺めながらのあの世行きだ。お嬢さんは元気だから、死ぬまでさぞ良い声でたっぷり泣いてくれそうだな。」

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