暗く、そして広いスタジオ。照明はステージに集中し、それを取り巻く観客達は薄闇の中、シルエットでしか見えない。そして、俺は一人、照明の下に立ちつくしていた。
実のところ、殺人ショーの司会というのは初めての経験だ。観客達も筋金入りのVIPばかり。緊張するなという方が無理な話である。それに、今着込んでいる憲兵隊の礼服というのも非実用的な代物で、動きを束縛することおびただしい。俺の全身は固くこわばり、うっすらと汗がにじんでいるのが自覚できた。
だが、ステージの奥のカーテンが開き、犠牲者の少女が姿を現すと俺の体は若干軽くなった。照明は彼女に集中し、哀れな、そして美しい姿を観客達にさらけ出させる。
今回の犠牲者は、先日収容所を占拠したとき捕虜にした主計将校だった。やや小柄な体つきをしており、おさまりの悪い長髪は背中の中程まで伸ばしている。綺麗で、かわいらしい顔つきをしているが今はその顔は恐怖に歪んでいた。全裸にむかれたその体は、左右から二人の憲兵に掴まれている。俺は、襟元につけたマイクのスイッチを入れると大きく息を吸い込む。
「れでぃーすあんどじぇんとるめん!たいへん長らくお待たせいたしました、これより憲兵隊主催、戦費捻出処刑ショーを執り行います!なお、今回の収益金は全額我が軍の戦費に充てられます。さあ、それでは今回みなさんを楽しませてくれる彼女に、盛大な拍手をお願いします!」
我ながら、驚くほど口が良く回った。観客席からは一斉に歓声と拍手が上がる。いい感じだ。俺はすでに、緊張をみじんも感じなくなっていた。
「本日のテーマは、四肢切断アンド絞首!」
俺は両腕を広げ、派手にマントを翻して観客達に正対した。一昔前の料理番組の司会者をまね、芝居気たっぷりに声を張り上げる。
「アーレ、キュイジーヌ!」
我ながら悪のりきわまる。だが、観客の反応も上々だ。観客達は期待に身を乗り出し、俺と、そして全裸の少女に注目している。
一方、少女は蒼白な表情で周囲を見回していた。もっとも、四方八方から強い照明を浴びせられているので観客の姿はほとんど見えないだろう。彼女にはっきり見えるのはその体を拘束している二人の憲兵、そして俺ぐらいのはずだ。俺はゆっくりと少女に歩み寄った。
間近で見る少女は、遠目に見たときよりさらに美しかった。小柄でほっそりした体は白色人種には珍しくきめの細かいなめらかな肌をしており、乳房はやや小ぶりだが形がよい。先端の乳頭は、ごく淡いピンク色だった。おさまりの悪い長髪はやや固くごわごわした感じだが、対照的に陰毛は淡く、柔らかそうに見える。
俺は少女の胸元に手を伸ばし、その乳房を軽くもんだ。
「ひっ…」
少女はかん高く、短い呻き声を漏らした。恐怖と悪寒からか、鳥肌が立っている。
「おやおや、ずいぶん緊張しているようだね。」
「や、やめて…手を離して…」
「まあまあ、そうつれなくするものじゃない。君の可愛らしい姿を見るのに、こんなにたくさんのお客が集まっているんだ。みなさんのために、綺麗な死に様を見せてくれ。」
「死に様って…私は、死刑になるようなことは」
「してないよ。」
「だったら、何故」
「これは公開処刑じゃない。観客が楽しむための処刑ショーなんだ。」
そう、これは我が軍の戦費捻出活動の一環だった。本来、我々の本国は経済大国として知られた島国で、第三次世界大戦の最中である現在も外貨には不自由してない。だが、この北部戦線は政府内部でもその維持が疑問視されている戦線で、その主軸たる我々親衛軍は本国から満足な補給を受けられない状態だった。兵士を飢えさせると世論がうるさいので食料や衣服、それに医薬品は潤沢に供給されるが、攻勢にでるための武器弾薬は慢性的に不足している。今や我々は現地で生産活動を行い、それにより得た資金で第三国から武器を確保している有様だった。俺の腰に吊っている拳銃など、こともあろうにデザートイーグルである。たしかに大口径の自動拳銃としては信頼性の高い成功している銃だが、憲兵の持ち物ではない。人工筋肉で強化した右腕にでさえ、この銃の反動はきつすぎる。
「…なんでこんな…あなた達の国は、平和主義の文明国じゃなかったの?」
「無論、文明国さ。君の国の兵隊なら女を見つけたらせいぜい五、六人で輪姦して殺すぐらいだから、一つの人命を犠牲にしてもそれだけの人数しか楽しめない。だが、我々は。」
俺はそこまで言うと右腕を軽く振り、観客達を指し示した。
「これだけの人数を集めて、君を殺すのを鑑賞するんだ。しかもこの様子はビデオにして地下ルートでも販売するから、直接間接に、何千もの人間が性欲を満足させられる。それに、ショーが終わったら君の死体は屍姦が好きな人たちの間でオークションをして買い取ってもらうから、ちゃんと直接君の体を味わうことのできる人もいる。文明国にふさわしい、実に効率的な方法だろう?」
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