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「もういい。放して。」
 針を抜いた俺は憲兵に少女の両脚を放させ、彼女に再び立った姿勢をとらせた。十秒ほど待ってから、彼女の乳房に手を伸ばす。
「即効性だからね、もう大丈夫なはずだが…ちょっと試すよ。」
 俺は少女の乳房をわしづかみにし、ねじりあげた。普通なら、耐え難い苦痛をもたらすほどの強さで。
「ひっ!?」
 少女は顔を歪めて声を漏らしたが、それは苦痛に対する反応とは少し違った。むしろ、くすぐったさをこらえているような感じだ。俺はさらに乳房をねじる。
「ひゃう、あ、ひあっ」
「良くできた薬だろう?痛覚はほぼ完全に消し去るけど、触覚はむしろ鋭敏になるんだ。前線で負傷した兵士のために開発されたんだけど、習慣性があるから不採用になったものでね。けど、君は習慣性を気にする必要がないからね。」
 悪趣味で、少しわかりにくいジョーク。観客席の反応もいまいちだ。だが、これはコントではないのだからさほど気にすることもない。俺は懐から四枚のカードを出し、観客席に掲げて見せた。それぞれのカードには、見やすいように、極太明朝で「右腕」「左腕」「右脚」「左脚」と書いてある。俺はそれを少女にも見せ、手早くシャッフルした。その四枚のカードをババ抜きをするときのように広げ、少女を連れてきた憲兵の一人に差し出す。
「役得だ。引いてみるかい?」
「ありがたく。」
 憲兵は嬉しそうに笑って即答した。二、三秒迷ってから一枚引く。
「右脚、ですな。」
「ほう、いきなり足か…一回目に賭けたお客さん、ひょっとしたらひょっとしますよ。」
 俺は腰に吊ったサーベルを抜いた。敵国の治安警察が使用しているチタン製のサーベル。先日技術将校を殺したときに奪ったものだが、切れ味は抜群だ。俺はそれを、前の持ち主の首を切り落として確かめている。
「さて、始めるよ。」
「やだあっ、やめて、やめてっ、やめてよおっ!」
 抜き身のサーベルを見た少女は、再び泣き叫び、暴れ始めた。両腕をでたらめに振り回す。あまり近くに立つと、こちらの体を掴まれる心配がありそうだ。俺は2メートルほど離れ、サーベルを構えた。動きのじゃまになる礼装用マントを脱ぎ捨てる。いつのまにか、観客席は静寂に包まれていた。暗いスタジオに、少女の泣き声だけが鮮明に響く。俺は数回の深呼吸の後、息を吐きつつ止めた。全神経を、少女の右脚にのみ集中する。
 床を蹴り、少女の傍らを通過するように跳躍する。そしてすれ違いざま、サーベルを振るう。撫で斬るような、一撃。
 手応えは、比較的軽かった。だが斬り損じたわけではない。俺は間違いなく、少女の右脚を切り落としていた。白い、形の良い足が床に転がり、びくびくと痙攣する。少女の体からはおびただしい血が流れ出し、床に転がった自らの足を紅く染めた。
「や、あ、あああっ!」
 甲高い悲鳴をあげた少女は、自らの作った血だまりで残った左脚を滑らせた。天井から吊られたロープが彼女の首に食い込む。少女は両手でそのロープの結び目よりも上の部分を掴み、ようやく体のバランスを取り戻した。一本足で、なんとか立った姿勢を取る。俺は少女のすぐそばに立った。
「なかなかがんばるね。お客さんも喜ぶよ。」
「…脚…私の、脚…」
 少女は呆然とした表情で、切り落とされた自らの脚を凝視していた。その間にも出血は続き、床の血だまりは見る見るその面積を広げていく。
「血、血が…やだ、死ぬ…死んじゃう…」
「大丈夫、君は失血死する心配はないよ。」
 俺はそう言って、もう一人の憲兵にカードを引かせた。「左腕」と書かれたそのカードを、少女に見せる。
「君は窒息死するんだから。」
 俺はそういいざま、いきなりサーベルを一閃させた。下から上へのすくい上げるような斬撃。少女の左腕が、上腕部の中程で断ち切られた。俺はその左腕を床に落ちる前につかみ、胸元に抱いた。ほっそりした腕が、ひくひくと痙攣する感触をじっくりと味わう。ちょうど手の部分が俺の顔にあたり、痙攣する指が頬をくすぐった。心地よい感触だ。
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